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審議所の悪魔 Ⅱ

مؤلف: エチカ
last update تاريخ النشر: 2026-05-06 20:15:15

 モリガン大佐の豹変ぶりが鮮やか過ぎて、オルタナは呆然とした。

 微塵も悪びれていない。

 最初から犯人に仕立てるつもりだったのだ。

 そのモリガン大佐の態度が、オルタナの心を容赦なく刺した。

 まるで無罪を確信しているようなモリガン大佐の振る舞いに、公爵は終始薄い笑みを浮かべている。

「陛下、証人を召喚しても宜しいでしょうか?」

「あぁ、許す」

 証人が用意出来たと言っていたが、オルタナはそれが誰だか知らない。

 ただ、審議所に入る前に公爵からは「その場にいる全員をよく見ておけ」と言われていた。

 公爵の呼びかけに応じて審議所の扉から入って来たのは、二人の男。

 一人はモリガン兵の軍服を着ており、一人は明らかに貴族の風体に白いローブを纏っている。

 モリガンで白いローブを纏っているのは、医に携わる者だけだ。

 兵士の方は若そうだったが、一緒に入って来た貴族風の男は公

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  • 魔女ドーラの孫(仮)   物言わぬ獅子

     巨木の木陰に隠れる様にして馬を繋ぎ、下馬したオルタナとスーランは鉢合わせた馬車から当人達が出て来るのを盗み見ていた。 先に出て来たのはケルメスで、遅れて大公妃が降りて来る。 少し離れた場所から見ているオルタナには話し声までは聞こえていないが、スーランにはその会話は丸聞こえの様だった。「行ってくる」「うん。気を付けて!」 スーランは腰に付けた剣を抜き、背後からケルメスに忍び寄る。 大公妃からは丸見えだが、それに気付いても大公妃は眉一つ動かす気配はなかった。 スーランが何をしようとしているのかをまるで分っているみたいに、ケルメスの気を惹き足止めしている。「動くな」 そう言ってケルメスの首元にスーランが剣を突きつける。 大公妃はそれを見て、満足そうに笑った。 この人はケルメスの悪事を知っている。 その顔を見てオルタナは大公妃はこちら側なのだと確信出来た。 そう思った瞬間、ケルメスの馬車からもう一人降りて来る――。「スーランッ! 後ろぉっ――――!!」 スーランの背後に降り立った剣を振りかざしている護衛の姿に、オルタナは思わず駆け出していた。 だが、その刹那。 大公妃が右手で何かを投げると、背後に現れた護衛は絶叫しながらしゃがみ込む。「ぎゃぁぁああっ!!」 顔を押さえたその護衛は悶絶し、手の隙間から血を流している様に見えた。 何かが顔に刺さっているらしい。 隠れていろと言われたのに飛び出してしまったオルタナは、その状況に驚き、ふいにこちらへと襲い掛かって来る護衛に後れを取る。 顔から血を流し興奮しているその護衛に掴まれ、オルタナはその力の強さに振り払う事も出来ず羽交い絞めにされてしまった。「オーリィッ!」「うぐっ……

  • 魔女ドーラの孫(仮)   約束

    「鹿笛って人間には聞こえないらしいんだけど、俺、聞こえちゃうんだよね」「スーラン、耳良いもんね」「まぁ普通じゃないらしいけど、他人に聞こえないなら都合が良いからさ。親父から大聖堂へ行けって連絡があって……」 向かっている途中に王妃を乗せた馬車と遭遇したスーランは、護衛を全員気絶させ、王妃特製の睡眠薬で眠らせる事にした。 その護衛達を見つからない様に叢へと隠して、王妃からある程度の事情を聞いて護衛の衣服と祈りの間の鍵を追剝し、大聖堂の裏山へと来たらしい。 そこでオルタナが落とした公爵家の家紋の入ったハンカチを見付けたのだと、ハンカチを抓んで振って見せる。「ラティとダリスは?」「見つからない様に隠れて貰ってる」「オーリィ、どっか痛い? 何か動きが変」「……大丈夫」 本当はさっきから背中が疼いて痛い。 でもそれより、とオルタナはスーランの顔色を診て、確かめる。 僅かな間でもあの蒸気の中にいたスーランの状態も気になっていたからだ。「スーランは体、変じゃない? 大丈夫?」「うん。俺、親父と一緒で鼻がバカだからさ。フェロモンとか効かねぇの」「そうだったんだ……」 スーランは戦争孤児で幼い頃親父さんに拾われた子供だ。 血が繋がっていないのに、似ているなんて不思議だ。「凭れかかってて良いよ」「あ、ありがと……」 スーランが乗って来た馬の前側に座らされて腰を抱かれるのが、少し居心地悪い気がした。 兄弟の様に育って来た隣の肉屋の息子は、いつの間にこんなに手が大きくなったんだろうか。 二つ年上だし、αだから昔から体格差はあった。 けれど、

  • 魔女ドーラの孫(仮)   兄弟

    「何です? 騒々しい……」「S級の孤児院で感染症らしき症状が出た子供がいると」「感染症だと?」「それより、それを伝える為に大公妃がこちらへ向かっておられます」「何だと?」「ここは私が! 早くお戻り下さい!」 そう言われてケルメスはバタバタと洞窟内を駆け上がる様にして出て行く。 オルタナはアルバに壁際まで追い込まれて、身動き取れない状況になっていた。「怖くないよ、兄さん。気持ち良い事しかしないから」「煩い! 誰がお前なんかとっ……」「他のΩの子達はみんな喜んでくれるよ?」 そう言ったアルバに唇を寄せられ、オルタナは怒りに任せてそれを噛んだ。「痛っ……ちょ、噛むなんて酷いよ……」「僕はサリバン公爵の番だっ! ヴィー様以外とはしないっ!」 苦し紛れにそう虚勢を張った時、ケルメスを呼びに来た護衛がアルバの背後に立っていた。 嘘だろ――? 二人相手じゃ詰みだ……。 そう思った瞬間、その護衛はアルバの首根っこを掴むと力任せに引き剥がし、アルバは後ろへと尻もちをつく。 護衛は腰に付けていた剣を抜いてアルバに突きつけた。「何をするっ! 僕にこんな事して許されると思っているのか?」「知るかよ。オーリィに触るな」 そう言って覆面を取った護衛は、見覚えのある赤い髪をしている。「……スーラ……ン」「大丈夫ですか? オルタナ様」「止めてってば、その喋り方……」 オルタナはスーランの顔を見て、安心してズルズルと壁沿いを滑る様に座り込んだ。「ふっ、師匠いねぇし、まぁいっか。……オーリィ、こいつ何?」「……弟、らしいよ」「公爵様の? 確かに似て……」「うん、後……

  • 魔女ドーラの孫(仮)   第二の審判

    「第二の審判……?」「オルタナ、私は君を高く評価しているのですよ。不遇な子供時代を経てサリバン公爵の番にまで上り詰めて来た。妊娠出来ないと言う欠陥が実に惜しい」「完璧ではないから殺そうと言うのですか?」「まさか。我々の最終的な目的はアルバを王に即位させ、新しい王政を布いてモリガンで夜葡萄を再生する事。お前がいてもいなくてもそれは実行される。夜葡萄の再生に必要な原初のΩの血はここにありますし、発情しないお前の血は役に立ちません。種もしかるべき所で厳重に保管していますから、お前の生死は正直問いません」 そう言ったケルメスは懐から出した香水瓶の様な物に入った血液らしき物を翳して見せた。 赤黒いそれを愛おし気に眺めたケルメスは「お前の母の血です」と笑う。 ゾッと背筋に震えが走った。 固まっていない所を見れば、何かしら混ぜてあるのかもしれない。「新しい国では神に愛された者だけの世界を創ろうと思っているのです。弱く不完全な者は先に排除し、強く賢い種だけを育てていく。植物だってそうやって間引くでしょう? より良い実を実らせる為の審判ですから、君だけではありません。あの口の達者な小娘にも第二の審判は用意してありますから、精々頑張って下さい」 ケルメスは「これはサリバン公爵への審判とも言えます」と喉を鳴らして不敵に笑った。「ではアルバ、私は大公妃の元へ戻ります」「うん」「いつもの様に、お前の好きにして良いですから」「分かった」 何の事か分からないアルバとの短い会話を終えたケルメスは、上座に据えられた女神像の足元へと歩いて行き、その土台に当たる部分を踏み抜いた。 ボコッと言う鈍い音が鳴り響き、シューっと何かが吹き出る。 煙の様なその白い気体が何なのか、ここからでは全く分からない。 走るか? いや、無理か? ケルメスがこの部屋を出る瞬間を狙って、扉が開いた瞬間にケルメスだけならどうにか出来るかもしれない。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   傾いた天秤

     ケルメスはその青年をアルバと呼んだ。「種は違いますが、彼が同じ胎から生まれた兄ですよ」 アルバと呼ばれたその青年は、物珍しい物を見る様にこっちを見ている。「へぇ……全然似てない。あ、でも耳飾りは似てる」「彼は母親にそっくりですよ。耳飾りはレプリカでしょう」「母さんの事、全然覚えてないや」「お前が生まれて間もなく死にましたから、覚えていなくて当り前です」 そう言ったケルメスは、気持ち悪い程の笑みを見せる。 オルタナは今の状況を理解しようと必死に頭を回していたが、考える事を放棄したい感情が邪魔で上手く思考出来ない。 ただ、アルバはケルメスを“叔父上”と呼んだ。 母を愛妾として囲っていたのはケルメスだと思っていたが、ケルメスは彼の父親ではない。 それが何を意味するのか。 アルバの父親が誰なのか、誰が母を孕ませたのか――。 考えなければならない事がただ溢れてきてしまう。「驚いているようですね、オルタナ」「……そうですね」「彼はアルバと言います。正真正銘、彼はエヴレカの子であり君の弟です」「父親は誰なのですか?」「私が父親だと思いましたか? 残念ながら私は生まれて間もなく去勢されましてね。そう言った事は出来ない体です」 去勢――? この国で去勢が行われていたのはもう随分昔の事だと聞いている。 信じ難い発言だったが、今はそれどころではない。「アルバを見れば分かるでしょう? 見覚えのある顔なのでは?」 オルタナは一番気付きたくない事に、気付いてしまった。 彼がこの祈りの間に入って来た時に感じた既視感――それは、公爵に似ていると言う事だ。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   潜入班

     大聖堂へと連れて行かれるオルタナ達を馬車に乗せ、ケルメスはそちらへ付かせる護衛達に何か指示を出している様だった。 ノチホド ソチラニ ムカイマス ? ケルメスの唇を読みながらアラベルとオブライアンは顔を見合わせる。 潜入できたは良いがまだ何の証拠も手に入れられていない。 公爵から言われているのは種芥子に関する証拠とラカンとの繋がりに関する証拠を押さえる事。 だがこの爺はアステール河を視察すると言う大公妃の最初の目的を果たした後、すぐにオルタナ達を別行動させるつもりらしい。 もう少し一緒に動ける見込みだった所を、早々に窮地に追い込まれてしまった。 王妃とオルタナの安否が分からない状態では、動き辛い事この上ない。 ケルメスは大公妃と大人の話をする為に礼拝堂に行くつもりらしいが、多分そこにはこちらが欲しい情報は何もないだろう。 兎に角、この爺を引き離さなければ動きようがない。「なぁにしてんだい、あんた達」 ひっそりとそう声を掛けて来たのはドーラだった。「……何で分かんだよ」 アラベルは周りに聞こえない様に声を落としてそう答えた。「見りゃ分るわ。私を誰だと思ってんだい」「って言うか、バレちゃいけねぇヤツだわ」「あの爺の脳みそは鳥の糞だからね。気付いちゃいないだろうさ」 相変わらず口が悪い。「そっちのも、えらく懐かしい顔じゃないか」 ドーラは変装しているはずのオブライアンにそう問いかけた。「久しいですね。オピ」「まだ引退してなかったのかい、オブ」「……知り合いなのかよ」「「同胞だ」」 そう言われてアラベルは、あぁなるほど、と納得した。 βの癖に何でも出来ると噂の元王妃の専

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅴ

    「モリガン大佐に頼まれていたのは、ただの香辛料で……」「それが、悪用されたようだ」「あ、くよ……う?」「適量を守ればただの香辛料も、摂取量を間違えれば毒になる。彼らが死ぬ前に飲んだ酒には大量の香辛料が混入されていた」「ま、さか……大佐が……? 嘘だ……」「まだ、真相は分からん。だが、こんな分かりやすい方法で六人も害したとなれば、お前は犯人に仕立てられたんだろうよ」

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅳ

     祖母は顔の上半分が薬草に被れて、まるで火傷の痕の様に爛れている。 その見た目から祖母は魔女ドーラと揶揄されていた。「あぁ、いや違う。気を悪くするな。彼女は栗毛で肌も小麦の様だった。お前は銀髪に白い肌をしているから、こんなに違うものかと……」「そ、祖母に会ったことがあるんですかっ?」「あぁ、一度だけ。モリガン伯が薬物兵器を研究していた者を監禁していると聞いて、見に行った」「そう、ですか……」

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅲ

     今からでも逃げるか……いや、無理だ。 少なくともローブの男と大柄なノエルと呼ばれていた男は間違いなくαだろう。 ミレーと呼ばれていたもう一人は女性だったが、纏う雰囲気がもう凡人のそれではない。 間違いない、全員αだ。 詰んだ。 でも、どこかで逃げなければ、このまま監獄にでも入れられたら、本当に人生が詰む。 ドーン王国では魔女狩りと称して薬師が大量に殺された時代があった。 当時の王が薬師に王妃を殺されたとして、国中の薬師を虐殺したのがキッカケだったとか。 そのせいでドーン王国は他国に比べ薬学が廃れて久しい。 現王レイモンドは積極的に他国からの薬も輸入し、自国の薬師を増やす政

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅰ

     ベルの花が鳴く頃、モリガン区の雪も少し解け始める。 雪原から顔を出した青白いベルの花は、リンリンと鳴いて春を告げるのだ。 そんな北の果てに不穏な噂が流れていた。「王都じゃ余計に死人が出たってさ」「ここじゃ当たり前だが、去年は寒かったからねぇ」「何でも王都じゃ病で死んだ者は、教会で死体を燃やすんだと」「罪も犯してないのに病で苦しんだ挙句、体を焼かれるなんて酷い話じゃないか」「王様も教会には強く言えないんだろうさ」「サンノ国から来られた王妃

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